我が家の篠塚ヒストリー 〜篠塚さんの野球教室in富山を通して〜

2015年12月17日
 突然私事で恐縮だが、今から26年前。翌日に県営富山野球場で読売巨人軍の試合が開催される日だったと思う。父親とおそらく前日練習を観に行ったのだろう。当時小学3年生だった私は大のジャイアンツファンであり、一番の憧れが篠塚選手だった。父は私のことを篠塚選手のようになって欲しいと右投げ左打ちに仕込んでいた。その日、仕事を早く切り上げて帰ってきた父が、同じく駆け足で学校から戻った私を連れて二人球場へと急いだ。

 前の年にナゴヤ球場で初めて巨人中日戦を観戦していたので、選手を間近で見るのは二度目。実はその時に買った選手のサインボールを球場に忘れてきた苦い思い出がある。この日は何としても憧れの選手から直筆のサインをもらおうと、事前に買っておいた硬式ボールとマジックを握りしめていた。
 練習が終わり、選手がバスへと乗り込んでいく。目当ての篠塚選手の姿を窓越しに見つける。間に合わなかった。そう諦めかけた私に父が、「ここで勇気を出さなかったらずっと後悔するぞ」と背中を押した。すぐに理解した私は出発前のバスに乗り込んで篠塚選手の前までいき、「サインお願いします」と頼んだ。 篠塚選手は「僕、ここまで入ってきちゃだめだよ」と言って私の手からボールを受け取り、スラスラとマジックを走らせた。私はお礼を言って逃げるようにバスから降りた。胸の高鳴りがピークに達していたことを今でも鮮明に思い出す。

 その後も篠塚選手のプレーをテレビで見続けた。1993年には当時ヤクルトの伊藤智仁投手がセ・リーグの奪三振タイ記録に並んだ直後の9回2アウトから、篠塚選手が放ったサヨナラホームランに全身鳥肌が立ったことを覚えている。初球を捉える直前に打席を2度外すというかけ引きにしびれ、初めて野球の間(ま)というものに魅せられた瞬間だった。

 私は現在35歳。箱の中に今でも大切にしまっている篠塚選手のサインボールを十数年ぶりかに取り出した。12月4日のこの日、篠塚さんの野球教室が富山市内で開催されるという。場所はベースボールハウスMVP有沢店。「往年の名選手が富山で指導」という話題に飛びつき、取材におじゃました。色褪せたサインボールとマジックを再び握りしめ。
 
 野球教室が始まる前の30分間、取材の時間をいただいた。私は完全に舞い上がりながらも当時のことを篠塚さんに説明する。そしてポケットからサインボールとマジック。篠塚さんはやさしい笑顔を浮かべ、同じボールに再びサインをしてくれた。

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 篠塚さんは現役引退後、巨人の一軍コーチや侍ジャパンの打撃コーチなどを務め、現在は野球解説者や評論家として活躍している。自らの野球教室も持ちながら、時に全国へと足を伸ばし、子どもたちの指導にもあたっている。聞いてみると、「低学年の子どもであっても、教えることはプロと同じ」だという。どんな贅沢な指導が受けられるのかと思ってしまいそうだが、言い換えれば「子どももプロも基本が一番大切」だということになる。
 野球教室を取材していてそれがわかった。1グループ30分という短い枠だったこともあるが、篠塚さんはこの日、下半身の使い方に特化して指導にあたった。わかりやすい理論をまじえた説明と実演に、子どもたちのスイングが徐々に変わっていくのがわかる。「目的意識を持って練習しよう。続けて取り組まないとできるようにはならないよ」と子どもたちに呼びかけながら、30分では時間が足りず、予定時刻を過ぎても尚、熱心な指導は続いた。
 「しっかりとした技術を早いうちに身につけることが大切。そして一年でも早く、野球が楽しくておもしろいって思えるようになってもらえたらいいね。そうすれば野球を続けていきたくなるから」と篠塚さんは語ってくれた。

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 野球教室の最後にサインをねだる子どもたちを見て、「やっぱり連れてこればよかったなぁ」とふと思う。再び私事になるが、自分の長男が現在小学3年生で、右投げ左打ちの野球小僧である。奇しくも篠塚選手から初めてサインをもらった時の自分と、全く同じ時代を今過ごしている。

 取材を終え自宅に戻るとその長男がすっ飛んできて、「またサインもらえた!?」と聞いてくる。ボールを見せると目を輝かせてしばらく握りしめていた。もう一人、保育所通いの年長児である次男も右投げ左打ちの野球小僧第2号だが、まだ我が家の篠塚ヒストリーのことは理解できていない。この子たちにぜひプロ野球選手になってもらいたいという親心を抱いて、篠塚選手に聞いてきたことがある。それは富山からプロ野球選手をどうやったら多く輩出できるかということ。
 「やっぱり有名な高校、甲子園で上位にいく常連校が出てくること。そうやって良い選手が発掘されやすい環境をつくることかな。春夏常連で出てくるくらいの高校がないとね。あと中学校の間に素質を上げていくこと。この期間も選手にとって非常に大事だね」と話してくれた。
 安心してください、篠塚さん。今富山の野球界が全力を挙げて強化策に乗り出していますから。(富山県野球協議会の取り組みは2015夏号を参照) 
                                         (12月4日取材・文 中沖 紘一)

※篠塚さんの野球教室は4月まで毎月開催される予定で、対象は小学生と中学生。1クールを45分に変更し、受講料は8000円のまま。団体指導も受け付けており、詳細な申込み・問い合わせはベースボールハウスMVP有沢店(担当・川合)まで。
※ ベースボールハウスMVP有沢店 076-493-4444 http://www.mvp55.com/