指導者の新たな学びがチームを成長させる 〜富山県野球協議会 今年度第2回指導者研修会より〜
「富山県の野球を強くするために」。そう思って集まった指導者の数はこの日120人を超えた。富山県野球協議会が開催した今年度の第2回指導者研修会に招かれた一人目の講師はメンタルトレーナーの飯山晄朗氏(高岡商出身)。経営のコンサルティングをはじめ様々な分野でメンタル指導を行うが、スポーツの世界でもその力を発揮してきた人物だ。
去年の夏の高校野球石川大会決勝で、星稜が最終回に一挙9点を取りサヨナラ勝ちで甲子園出場を決めた試合は鮮烈な印象を残した。今年の夏の選手権大会では、我らが高岡商業も8点差を追いつく壮絶な試合を展開し、決して諦めない魂をみせてくれた。実はこの両チームのメンタルトレーニングを請け負っていたのが飯山氏なのである。
集まったのは小中高校から大学、社会人に至るまでの指導者たち。講義で飯山氏は脳が持つ特性をしっかりまじえながら、選手の潜在意識を呼び覚ます方法を具体的に説明していった。
「必ずそうなると思えてしまったら実現できる。ただ、そう思うことが難しい。全国制覇をすることは簡単だが、出来ると思うことが難しい」と飯山氏は言う。例えば、プラス思考が良いのはみんなわかっていても、それを維持できない。ではどうやって脳に刷り込ませるのか。「脳は入力よりも出力を信じる。言葉や動作、表情を変える。そうすれば脳にアクセスがかかるのが早い。心が勝手に変わる」と飯山氏は説く。また、目標の内側にしか結果はこないことや、いいイメージを繰り返すために使われる言葉やポージングなどをエピソードや実際の試合映像をまじえて紹介。星稜と高岡商業の選手たちが、決して諦めずに戦い抜くことが出来たメンタル構造を紐解いた。その上で飯山氏は、『精神力』を鍛えるという概念より、必ず出来ると信じる『成信力』があってこそ、辛いことでも我慢できるとし、強い『願望』なくして辛抱なしと強調した。
野球に限らずスポーツの世界ではどうしても厳しさが前面に出てくるが、飯山氏はただ厳しいことをやれば強くなるという考え方は間違いだと真っ向から否定した。
取材していて私が一番心に残ったのは、「『願望』を与えることが指導者の仕事」という一言だ。決してやみくもに鍛えればいいというわけではない。心を通わす会話で選手の気持ちを理解し、上を向かせてやる。そうやって築いていく信頼関係こそが、チームの躍進に繋がるはずだ。
研修会ではこのあと、弁護士を招いたリスクマネージメント講習が開かれ、不慮の事故に備えるために知っておかなければならないことを学び、午後からは場所を変えて走塁技術の講義に移った。
講師は兵庫県立東播磨高等学校野球部監督の福村順一氏で、前任の加古川北高校では春夏ともに一度ずつ、チームを甲子園に導いた実績を持つ。積極的な走塁を武器に、公立を強豪校に育て上げてきたその手法に注目が集まった。
野球の「走る」は、ただ走るのとは違う。次の塁を狙うために必要な一瞬の状況判断。それにともなうスタートの切り方や離塁の距離など、好走塁には様々な要素が絡み、それが相手のペースを乱し、試合の流れを変え、紙一重のタイミングが勝敗を決めることもある。
今回の講義には、『そんなことは知り尽くした』指導者たちの中からも「やっぱり奥が深いね」という声が漏れるほどの理論が散りばめられていた。
最初にみんながどよめいたのは、リードの大きさだ。それだけの距離をとりながら、牽制に対して帰塁できる理由を身体の捌き方や相手ピッチャーの癖の見抜き方を中心に説明する。一手も二手も先のプレーを読んだ餌のまき方を絡ませながら、ディレードスチールや偽装スタートの方法も紹介した。また、ベースをまわる際に、これまで当然と思われていた膨らみ方ではない、最短距離でほぼ直角に入るステップも披露し、集まった指導者たちも実際に体を使って新しい走塁を体感した。
講義では、他にも書ききれないほどの走塁に特化した練習法や理論が公開されたが、まだまだ新しい走塁技術を編み出したいとする福村氏の姿勢に、集まった指導者たちも強い影響を受けているように感じた。
受講した若手指導者の一人は、「実績を挙げておられる方のやり方なので、そのまま取り入れてみます」と話した。一方、40代の指導者は「もちろんまずは試してみます。そこでチームにフィットしたら採用したい」とこちらは冷静だ。
確かに、簡単にブレてはいけない『指導者の方針』というものがある。その一方で、盛んに情報が交わされる今の時代、実証済みの新しい手法に目を向ける柔軟性だって求められている。
こういった研修会の場で得る有益な情報を、指導者がいかにコントロールして自分たちのチームに落とし込んでいくかが大切になってくるところだ。実際に一日の研修を通して私自身、少年野球の指導に携わる一人としてシンプルに感じたことがあった。それは学び続けなければいけないということ。常に進化を続けるスポーツ競技において、その時その時の指導方法に自分の頭で判断を下すためにも、良質な材料はしっかりと仕入れておく必要があるのだと。
(12月12日取材・文 中沖 紘一)